【規制強化へGO】 海外移住と贈与税の話

元一部上場企業の消費者金融会社武富士社長の息子贈与税を支払わなかったとして、国税庁から追徴課税された。
息子は、追徴課税を不服として裁判を行った。

その結果は、何と400億円の利子を付けて、国から追徴課税ぶんのお金を全額返還されたのだった。
普通に考えると到底理解できないことだが、これは実際に起きたことだ。


どうして武富士の息子はそれほどの資産を得ることができたのか?

武富士は、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いの一部上場企業だった。

業種は 『 消費者金融 』
消費者金融とは、個人向け(消費者向け)で、高利回りでお金を貸し付ける金融会社のことだ。
(担保なしで貸付け)

担保がないぶん、かなり高リスクではあるが、利回りが高いので、回収さえできればかなりの高収益になる。

もちろん、貸しつけたお金を回収できなければ、その損失は会社側が被るが、かなりの利率な上に連帯保証人もとっていたため、それでも十分に利益が出ていた。

そんなわけで、株式会社武富士も儲かったし、オーナーである武富士の社長もかなり儲かった。

ところがその後、最高裁判決でグレーゾーン金利『 違法 』 認定されたため、今まで支払われたグレーゾーン金利ぶんの過払い請求の払い戻しに窮した武富士は、あえなく上場廃止してしまう。
(グレーゾーン金利とは、『 法定金利以上 』 ではあるものの、慣習的に顧客に支払わせてきた金利)



当時の武富士は、過払い状態だった顧客が延べ200万人、額にすると2兆円を超えていたので、資金繰りが悪化して、最終的には倒産してしまったのだった。
(現在は韓国の企業が所有している)


武富士


ところが!

武富士の社長は、海外にあった自身の莫大な財産を過払い金の払い戻しには充てず、息子に贈与してしまった。
また、社長自身の莫大な財産も払い戻しには使われず、訴訟沙汰にまでなった。


武富士経営陣らに対する最大規模の損害賠償請求訴訟を提起


なぜ、武富士の社長の息子は贈与税を払わなかったのか?

通常、このように親が息子に資産を渡してしまうと、贈与税がかかる。
(生前に渡すので生前贈与)

もちろん無税枠はある。
(年に100万円程度)

また、タワーマンションを買って相続税の支払いを少なくしたり、敷地内にマンションやアパート建設をして相続税を減らすなどの方法は現在も行われている。

でも、それでは全然足りないほどの資産を武富士の社長は持っていた。
そして、その資産の多くを息子に贈与した。
当然、国税庁はおかんむり。



これは許せんとばかりに追徴課税をかけようとしたのだが、武富士の社長は一枚も二枚も上手だった。
息子を相続税や贈与税が無税の 『 無税地域 香港 』 に移住させたのである。

香港は贈与税も相続税も無料なので、世界中のお金持ちが集まっていた。
同様の国には、シンガポールオランダなどがある。

でも、そんなことをされては、多額の相続税や贈与税を取らねばならない金持ち国民や在留外国人から、相続税を取りっぱぐれてしまう。

そこで、日本やその他諸々の国では、相続税を取るケース・取らないについてのガイドラインを設けている。

例えば、長年香港に住んでおり、一時的には日本で稼いではいたものの、今は香港に住んでいるケース。

これはもう、香港がホームグランドの国で、日本は出稼ぎの国と言うことで、日本はホームグラウンドの国ではないから贈与税は取らないと言うことになる。

さもないと、日本で少しでも稼いだら、日本で稼いだぶんの相続税を取られてしまうと言うことで、世界のお金持ちや投資家や企業が、日本で働いたり投資をしたがらなくなってしまう。

でも、日本が本拠地で、ずっと日本で生活してきており、国籍も日本
それなのに、相続税や贈与税がかかる直前の年にだけ、居住地を香港に変更。
このような場合は、日本の相続税が適用される。



要するに、相続税回避、贈与税回避のちょろまかしのために住所を無税国家に移転しても無駄、そういう場合は日本政府の徴税の対象になると言うことなのだ。

武富士の社長の息子の裁判では、『 徴税逃れのための香港在住なのか、香港に本拠地を移しているのだから贈与税は無税なのか 』 この点について争われた。


税率の安い国に住めば贈与税は回避できる?武富士事件にみる国外財産への課税強化:会計事務所のための税制改正事件簿vol.2


裁判の判決と裁判後に支払われた高額な利子

武富士の社長の息子は日本をホームグラウンドにする相続税と贈与税対象者なのか、それとも香港をホームグラウンドにする無税の人なのか。


所得税法 第2条 第1項 第3号

居住者
国内に住所を有する個人。
現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人。

非居住者
居住者以外の個人。


武富士の社長の息子は主に日本で活動しており、住所も本拠地も日本のはずなので、普通に考えれば追徴課税の対象だった。
実際に、高裁ではそのように判決が出された。

しかし、最高裁判決では、『 違和感はあるものの、本人が租税回避の否認をしているのに、課税することは当時の法律上で判断すると許されるものではない。法律は厳格に適用されなければならない 』と言う類のことを言い、徴収した追徴課税の払い戻しを国に命じたのだった。

しかも、国がこのような裁判で負けた場合、利子をつけて本人に追徴課税を返還しないといけない。
これがまた、非常に高い利回りで、当時ゼロ金利状態にあった日本において数%の高い利子(400億円)を付けて返還されると言う異常事態になった。

現在の日本において、年がら年中、残業しまくりで一日中働いても、月に20万稼ぐこともできない人が大勢いる中で、巨額の贈与を受けた社長の息子が、国から巨額の利子をつけて返還されたのである。
とても納得できるものではない。


【やり得禁止!】 現在の法律はこうなっている

こうして武富士の社長の息子は勝利を勝ち取った。
でも、この方法を行えば 『 合法的に 』『 相続税も贈与税もゼロ 』 で、『 自分たちの子供らに資産を残す 』 ことができる。

こんなことを放置していれば、高額所得者の海外への資本移転&資産贈与が相次いでしまう。

これはイカンザキ。
と言うわけで、贈与税についての法律が改正された。


財産を贈与される者が国内在住
→ 国内外のすべての財産に対して課税

財産を贈与される者が日本国籍だが海外在住
(在住期間については規定がある)
→ 国内外のすべての財産に対して課税

財産を贈与される者が外国籍な上に海外在住
→ 国内の財産に対して課税されるが、国外の財産に対して非課税


これにより、法律改正後は武富士の社長の息子のようなことは起こせなくなった。
この件では、400億円もの巨額の損失を出してしまったが、極めて不快な授業料として諦めるしかない。

ちなみに現在では、財産を贈与する側の人間が日本人であれば、財産を贈与される者が外国籍な上に海外在住の場合でも、国外の財産に対して課税されることになった。

これは、子供に外国籍を取得させ、さらに海外在住と言うことにして、贈与税逃れをする人が出てきたためだった。
(子供が日本国籍のままだと、海外在住でも海外資産に贈与税をかけられてしまうため)

このように、贈与税などの法律は年々厳しくなっていっているため、もし贈与税を回避するのであれば、今はこの方法で租税回避できるからと安心せず、最新の情報を入手しつつ、できるだけ早くに行動を起こした方がよいのかもしれない。
(そのうちなどと言っていると、いつの間にか租税回避法が失われてしまう可能性もあり)

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